自作台本より、一部抜粋です。 -- 古来、山は神や人外の領域だ。 世界最高峰の山であるエベレストも例に漏れず……いや、人々を拒むという意味では一際、厳しい。 高度七千メートル。 太陽の強い光が照りつける中、昼間だというのに空は黒く染まっている。空気が薄く、光の乱反射が起きず、宇宙の色が姿を現し始めているのだ。 浅く、凍る息を止めて、ゆっくりと視線を空へと向ける。 白い雪に覆われた峻険な山頂とその境界。 風が止み、深く沈む青と白のコントラストが目を焼く。 ぼんやりと目の焦点がずれてゆく。どこか、別の世界をみているようだった。 空一面に何かがあるような気がした。 空気の形が見えるような、見えないものに輪郭があるような、奇妙な感覚がした。 さり、と霜がついたまつ毛が音を立てる。 空に向かって、目をすがめた。 ……そこには、空を歪ませる透明な『空を覆う瞳』があった。 見てはいけない。そう直感したが、体は微動だにせず。 『瞳』はぴくぴくとその視線をずらし。 ひたり、と動きが止めた。 黒い空にあってなお暗い穴になった瞳孔が窄まった。 私の瞳孔が、ぎゅうと、空の穴に合わせて、痛いほどに窄まったのを感じた。 目が、合ったことに、気づいた。
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