陸奥陸奥2025-12-02 12:28

鼓動

いつも遊んでいただきありがとうございます。 お題12作目です。 めっきり寒くなりましたね。気温もそうですが、陽が落ちるのも早くなり、昇るのも遅くなっています。そんな冬をお題にしてみました。 よろしければ、皆様の命をふきこんでみてください。以下、本文です。 ---------------- 温もりを蓄えた布団の中で、閉じた瞼が少しずつ開いていく。起きたのか、まだ寝ているのか、ぼやけた感覚そのままに、一度深呼吸をしてみる。 日頃から節約のためと、暖房器具をなるべく使用しないという自分ルールのせいで、部屋の中は随分と冷えている。これで風邪をひこうものなら本末転倒というものだが、人間とは慣れる生き物だ。思いのほか頑丈なのだと感じる。 時刻は5:18。設定していたアラームより若干早く目が覚めたようだ。いつもならもう少し安眠に逃げ込んでいるところだが、なんとなく、外を散歩してみたくなった。 厚手の上着を羽織り、小銭を忍ばせ、静かに自宅を出る。建て付けがだいぶ悪くなってきているせいか、玄関のドアは開閉時にそこそこの音がしてしまう。今度の休みに管理会社に連絡をして見てもらおう。 外に出ると、一段と冷たさを増した空気が全身を取り囲んでいく。上着のポケットに手を突っ込んで、なるべく暖を逃がすまいとしながら、ゆっくり歩き始めた。近くの自販機でコーヒーでも買っていこう。心なしか楽しそうな自分がいる。 5:29。遠くから空気が振動している。 時たま通る車の音。室外機の音。同じように散歩に連れられている子犬の呼吸。枯れ葉を踏みしめる靴音。 まだ薄暗い冬の朝は、静かな鼓動に満ちている。 微睡みの中にいて、これから目覚めんとする命の鼓動が、耳の中に浸透していく。 私はもう一度、深呼吸する。 一番近くで聴こえる鼓動。目を閉じて、空を仰ぎ見る。 世界が目を覚ましていく。 なんでもないような、特別のような、そんな1日の始まりを告げていく。 -終-

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#朗読#女性#男性

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