学生時代。 電車を待つたび、君を探していたっけ。 違うクラスで、 会話なんて、一度もしたことはなかった。 それでも—— ひと目、見れるだけで。 その日は少し、幸せだった。 ある日の、突然の通り雨。 帰れなくて、 ただ、空を見上げていた私に。 君は、そっと貸してくれたっけ。 赤い、折りたたみ傘。 ——ありがとう。 そう言ったかどうかも、 もう覚えていない。 返す前に、 君は引っ越してしまった。 それから、ずいぶん時間が経って。 大人になった今も、 私はまだ、あの日の赤を持っている。 別に、頼まれた訳でもない。 大事にしなきゃいけない理由が、ある訳でもない。 でも。 もし、また会えた時。 あの頃、言えなかった想いも一緒に。 ちゃんと、返せたらって。 だから今日も、 少し色褪せた赤い傘を、捨られずにいる。
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