サンケーサンケー2026-08-05 01:17

雨の日の幽霊

【あらすじ】 雨の日だけ現れる、一人の少女の幽霊。 最初は迷惑に思っていた主人公だったが、一緒に過ごす時間が増えるにつれ、彼女との何気ない日常はかけがえのないものへと変わっていく。 しかしある日、少女の体は少しずつ透け始め――。 雨音が運ぶ、ひと夏の優しくて切ない物語。 ──── 【台本】 とある雨の日。 一人の女子高生が、この世を去った。 それを知る人は、もうほとんどいない。 けれど。 あの日から。 雨が降るたびに、僕の家には、一人の幽霊がやって来るようになった。 … 今日も雨。 朝から窓を叩く雨音で目が覚める。 カーテンを少し開ける。 灰色の空。 ため息が漏れる。 これで、何日目だろう。 最近、本当によく降る。 いや。 違うか。 君が来る日は、決まって雨なんだ。 「…いるんだろ。」 返事はない。 だけど。 背中に妙な気配がする。 振り向く。 「うわっ!」 目の前。 あと十センチもない距離に、女の子の顔。 「近い近い近い!」 思わず後ろへ飛び退《の》く。 彼女は楽しそうに首を傾《かし》げる。 悪気《わるぎ》なんてない。 ただ、反応を見るのが好きなんだろう。 僕の家に住み着いた幽霊。 年齢はたぶん高校生くらい。 名前も知らない。 どうしてここにいるのかも知らない。 聞いても、困ったように笑うだけだった。 だから僕は、聞くのをやめた。 「今日は何。」 彼女は嬉しそうにテレビを指差す。 「ああ、テレビ?」 こくこくと、頷《うなづ》く。 電源を入れる。 彼女は満足そうに画面を見つめる。 本当に変な幽霊だ。 呪わない。 脅かさない。 取り憑きもしない。 テレビを見て。 聞こえない声で、笑って。 僕に遊ぼうとせがむだけ。 … 昔から雨は好きじゃない。 濡れるし。 出掛ける気もなくなる。 休日なら、一日、一人で家にいたい。 でも。 最近の雨の日は、君がいる。 「トランプ?」 首を横に振る。 「ゲーム?」 嬉しそうに頷《うなづ》く。 「はいはい。」 ゲームを始める。 もちろん手加減なんてしない。 …負けた。 「なんでだよ。」 彼女は得意げな顔。 「幽霊ってゲーム上手いんだな。」 次はしりとり。 次はオセロ。 次はテレビ。 気付けば夕方。 「今日は満足?」 大きく頷《うなづ》く。 そして。 すっと姿が消える。 「また来るのか。」 返事はない。 でも。 次の雨の日には、ちゃんと現れる。 …最近。 雨の日が嫌だと思わなくなった。 天気予報を見る。 雨マーク。 少しだけ期待する。 今日は来るかな。 そんなことを考えている自分に笑ってしまう。 コンビニでお菓子を買う。 二つ取って。 「あ。」 苦笑する。 幽霊は食べられない。 戻そうとして。 なんとなく、そのまま買った。 「食べる?」 当然、食べられない。 でも。 嬉しそうに眺めている。 それだけで良かった。 … ある日。 彼女はマスクをしていた。 「どうした?」 首を振る。 「風邪?」 笑う。 「いや、幽霊は風邪ひかないだろ。」 また笑う。 その笑顔が少しだけ寂しく見えた。 その日。 テレビのリモコンを取ろうとして。 彼女の指先が、透けた。 「…え?」 一瞬だけ。 本当に一瞬だけだった。 見間違いかと思った。 だけど。 次の雨の日。 手首まで透けていた。 その次は。 腕。 肩。 雨が降るたび。 彼女は少しずつ薄くなっていった。 「大丈夫なのか?」 笑う。 「大丈夫じゃないだろう。」 それでも笑う。 どうして。 どうして、君は笑っているんだ? 僕だけが焦っていた。 … 最後の雨の日。 朝から土砂降りだった。 不思議と分かった。 今日だ。 今日が最後だ。 気付けば彼女は、部屋にいた。 ほとんど透けている。 それでも。 いつも通り。 テレビを見て。 ゲームをして。 くだらないことで笑った。 雨音が静まって行く。 彼女が僕を見る。 そして、小さく頭を下げた。 ありがとう。 そう言った気がした。 「また雨の日にな。」 言ってから気付く。 もう来ない。 彼女は少し困ったように笑って。 小さく頷《うなづ》いた。 そのまま。 雨粒が空へ溶けるように。 静かに消えていった。 … あれから。 雨は何度も降っている。 でも。 君は来ない。 テレビをつける。 「見るか?」 返事はない。 静かな部屋。 雨音だけが聞こえる。 君は僕に出逢えて、幸せだった? 僕は幸せだった。 雨は今でも好きじゃない。 だけど。 雨の日を嫌いじゃなくしてくれたのは。 間違いなく、君だった。 ──── 【後書き】 時間経過と、主人公が構ってくれた事による満足で、彼女は徐々に成仏の道へと進んで行った。 そのため、体の一部一部が薄れて行った。 マスクをしてたのは、薄れて行く自分に対する抵抗の表れ。

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#朗読#朗読台本#サンケー台本

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