蜂乃巣ゆん蜂乃巣ゆん2026-05-31 15:33

絵描きの、恋。

別れてから僕は、 もう恋なんてしないと思っていた。 乾ききった絵の具みたいに、 もう二度と色なんて戻らないのだと思っていた。 描き損じたキャンパスを白く塗り潰して、 何もなかったことにして。 熱も、期待も、 少しずつ消していく。 そんな味気のない人生を、 これから先、ただ過ごしていくのだろうと。 けれど。 君に出会った僕は、 驚くほどあっさり恋に落ちた。 真っ白だったキャンパスに、 一本の赤い線が走ったみたいに。 鮮明で。 少しだけ心が騒がしくて。 何でもない日が、 少し特別に見えてしまうような。 そんな感覚だった。 これまでの恋はきっと、 ラフ画みたいなものだったのだと思う。 描いては消して、 上手くいかなくて、 途中で投げ出して。 完成なんて、 最初から諦めていた。 だから僕には、 誰もが認めるような綺麗な絵を描く技術なんて、多分ない。 不格好になるかもしれない。 彩りを上手く乗せられない日もあると思う。 バランスを崩して、 筆を止めてしまうことだってあるかもしれない。 それでも。 本気で描きたいと思ってしまったんだ。 他の誰でもない。 君との作品を。 誰かの評価とか、 正しさとか、 そんなものさしで測られる絵じゃなくていい。 僕らが見て、 「悪くないね」って笑えるものを描けたら。 それだけでいい。 今はまだ、ラフ画でしかないのかもしれない。 でもこれから。 書き足して、 色を重ねて、 失敗しながらでも。 二人で仕上げていけたらと思う。 そしてもし。 君がその絵を気に入ってくれたなら。 いつか。 その作品の隅に、 一緒にサインをしてくれたら嬉しい。 賞賛なんてなくてもいい。 僕はただ。 二人にとって心地の良い絵を、 君と描いていきたい。

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