月の下で咲く花は美しいほどに人を狂わせる。 ‥そう、 初めて彼女を見た夜のことを今も忘れられない。 蒼白な月光の庭に、真紅の花弁を揺らすひとりの女。 花のようなその姿は、目を逸らすことを許さない。 私は、胸の奥を掻き乱される衝動に、理性が剥がれ落ちていくのを感じた。 「触れてはならない」と心は警告する。 だが足は危険を期待するように進んでゆく。 次第に近づく月下の香りは甘く、危うい毒は肺を満たし心臓を熱くする。 「見惚れてしまったのですね」 微笑む声が耳を焼く。 彼女は知っているんだ‥私がもう抗えないことを。 この恋は破滅だと悟りながら、それでも手を伸ばさずにはいられない。 月光の下で咲くその花を摘むことこそ、私の生の意味なのだ。 指先が花弁に触れた刹那、世界は赤く滲(にじ)み、音も匂いも溶けて消えた。 残ったのは狂おしい渇望と、ヒナゲシを貪る一匹の獣だけ。 赤に染まる‥全てが、赤に染まる‥。
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