蜂乃巣ゆん蜂乃巣ゆん2026-05-23 15:04

不格好な、サプライズ

病室の窓から見える空は、今日もやけに青かった。 こういう日に限って、空はびっくりするくらい綺麗だ。 いや、空気読んで? こっちはまあまあ人生のピンチなんですけど。 世界はそんなこと知らない顔で、普通に今日を始めている。 窓の外では、誰かが歩いていた。 仕事へ向かう人。 誰かを迎えに行く人。 晩ご飯を考えている人。 みんな、ちゃんと明日があるんだろうなぁ、なんて思う。 「またそんな顔して」 後ろから聞こえた声に、私はゆっくり振り返った。 お母さんが、コンビニの袋を片手に立っている。 「どんな顔ー?」 「無理して平気なふりしてる顔」 「えー、こんな可愛い子に失礼な!」 少し大げさに肩をすくめると、お母さんは苦笑しながら飲み物をテーブルに置いた。 「……あの子、大丈夫かしらね」 誰のことかなんて、聞かなくても分かる。 私は少し考えて、正直に答えた。 「たぶん、大丈夫じゃない。」 あの人は優しい。 ちゃんと笑うくせに。 ちゃんと仕事へ行くくせに。 平気そうな顔も、たぶんする。 でも。 優しい人って、案外ひとりになるのが下手だ。 急にいなくなったら、あの人、ちゃんと生きていけない気がした。 きっと最初は、ちゃんと泣く。 それから。 律儀だから。 何度も来る。 来なくてもいい日まで、きっと来る。 私は少しだけ笑った。 だから、少し前から考えていた。 私はベッド脇のスマホを持ち上げた。 「サプライズ動画、撮る!」 お母さんが眉をひそめる。 「……は?」 私は少しだけ笑ってみせた。 「もし、私が何も言えなくなった時。」 「未来の私が言うの。」 『ちゃんと生きろー』って。」 お母さんが、少し困ったように眉を下げる。 「変な動画にしないでよ?」 「むしろ傑作になる予定。」 お母さんが帰って、病室が静かになる。 急に、びっくりするくらい静かになる。 私はスマホを手に取った。 録画ボタンを押す。 『あのね』 停止。 「暗っ。」 もう一回。 『もしこれを見てる頃には――』 停止。 「いやいやいや。」 「重い重い重い!」 枕に顔を埋める。 違う。 そんな私、覚えていてほしくない。 泣いてる私じゃなくて。 弱ってる私じゃなくて。 いっぱい笑って、変なタイミングでふざけて、空気も読まずにくだらないことを言う私。 そっちの方がいい。 だってあの人は、そういうのに弱いから。 最後くらい、笑って困らせたい。 深呼吸をひとつ。 録画ボタンを押す。 『あー撮れてるかな?これ』 少しだけ笑う。 『さて問題です!』 私はカメラに向かって指を向けた。 胸の奥が少しだけ痛む。 でもこれは、お別れじゃない。 未来のあの人へ。 少し遅れて届く、とっておきのサプライズ。 だから私は、いつも通り笑って言った。 『どぅーどぅん!』

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#朗読#朗読劇#どぅーどぅん#ゆんの台本

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