病室の窓から見える空は、今日もやけに青かった。 こういう日に限って、空はびっくりするくらい綺麗だ。 いや、空気読んで? こっちはまあまあ人生のピンチなんですけど。 世界はそんなこと知らない顔で、普通に今日を始めている。 窓の外では、誰かが歩いていた。 仕事へ向かう人。 誰かを迎えに行く人。 晩ご飯を考えている人。 みんな、ちゃんと明日があるんだろうなぁ、なんて思う。 「またそんな顔して」 後ろから聞こえた声に、私はゆっくり振り返った。 お母さんが、コンビニの袋を片手に立っている。 「どんな顔ー?」 「無理して平気なふりしてる顔」 「えー、こんな可愛い子に失礼な!」 少し大げさに肩をすくめると、お母さんは苦笑しながら飲み物をテーブルに置いた。 「……あの子、大丈夫かしらね」 誰のことかなんて、聞かなくても分かる。 私は少し考えて、正直に答えた。 「たぶん、大丈夫じゃない。」 あの人は優しい。 ちゃんと笑うくせに。 ちゃんと仕事へ行くくせに。 平気そうな顔も、たぶんする。 でも。 優しい人って、案外ひとりになるのが下手だ。 急にいなくなったら、あの人、ちゃんと生きていけない気がした。 きっと最初は、ちゃんと泣く。 それから。 律儀だから。 何度も来る。 来なくてもいい日まで、きっと来る。 私は少しだけ笑った。 だから、少し前から考えていた。 私はベッド脇のスマホを持ち上げた。 「サプライズ動画、撮る!」 お母さんが眉をひそめる。 「……は?」 私は少しだけ笑ってみせた。 「もし、私が何も言えなくなった時。」 「未来の私が言うの。」 『ちゃんと生きろー』って。」 お母さんが、少し困ったように眉を下げる。 「変な動画にしないでよ?」 「むしろ傑作になる予定。」 お母さんが帰って、病室が静かになる。 急に、びっくりするくらい静かになる。 私はスマホを手に取った。 録画ボタンを押す。 『あのね』 停止。 「暗っ。」 もう一回。 『もしこれを見てる頃には――』 停止。 「いやいやいや。」 「重い重い重い!」 枕に顔を埋める。 違う。 そんな私、覚えていてほしくない。 泣いてる私じゃなくて。 弱ってる私じゃなくて。 いっぱい笑って、変なタイミングでふざけて、空気も読まずにくだらないことを言う私。 そっちの方がいい。 だってあの人は、そういうのに弱いから。 最後くらい、笑って困らせたい。 深呼吸をひとつ。 録画ボタンを押す。 『あー撮れてるかな?これ』 少しだけ笑う。 『さて問題です!』 私はカメラに向かって指を向けた。 胸の奥が少しだけ痛む。 でもこれは、お別れじゃない。 未来のあの人へ。 少し遅れて届く、とっておきのサプライズ。 だから私は、いつも通り笑って言った。 『どぅーどぅん!』
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