「お待たせいたしました。 コエミータクシーです。」 「はい、駅までですね。 承知しました。」 「最近暑いですね。 車内の空調はいかがでしょうか?」 「最近、夜遅くまでお疲れ様です。」 「え、あぁ。 何度かご乗車いただいてるんですよ。」 「……覚えていらっしゃらないんですね。」 「無理もありません。 タクシー運転手の顔なんて、覚えている方のほうが少ないでしょうし。」 「ええ。 忘れてしまっても仕方ありません。」 「でも私は、仕事柄なんでしょうか。」 「お客様のことは、案外よく覚えているんですよ。」 「顔も。」 「声も。」 「降りた場所も。」 「全部、覚えています。」 「……あぁ。」 「ルートが違う、ですか?」 「少し渋滞していましたので。 別の道を選ばせていただきました。」 「安心してください。」 「すぐ…着きますから。」 「あぁ、その前に。」 「少しだけ、私の話に付き合っていただけませんか。」 「去年、娘を亡くしまして。」 「警察の話では、他殺の可能性が高いそうです。」 「ですが、犯人は見つからない。」 「手掛かりもない。」 「毎日、何も分からないまま時間だけが過ぎていきました。」 「そんなある日。」 「二か月ほど前でしょうか。」 「娘の携帯の中に、一枚の写真を見つけたんです。」 「恋人と写っている、ごく普通の写真でした。」 「ですが、その写真には位置情報が残っていました。」 「そこから少しずつ調べていくうちに……。」 「あなたに、たどり着いたんです。」 「……あぁ。」 「申し遅れました。」 「私、逆波と申します。」 「ええ。」 「あなたが今、思い浮かべたその名前で間違いありません。」 「さて。」 「教えていただけますか。」 「どうして、私の娘を殺めたのでしょう。」 「隠さなくて結構です。」 「今夜は、時間がありますから。」 「あなたが知っていることを。」 「覚えてるかぎりを。」 「すべて、お話しください。」 「あの日。」 「娘の人生が終わった、あの日に。」 「何があったのかを。」 「…大丈夫ですよ。」 「本日の営業は、もう終了しておりますので。」 「帰りの時間なんて、気にしなくていいんです。」 「今、この車の中で大切なのは。」 「あなたが無事に帰れるかではありません。」 「私が、真実を知れるかどうかです。」 「さあ。」 「すべて、話してください。」
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