以下台本↓ 「答辞。 ……窓の外では、誇らしげに咲き誇る桜が、 私たちの門出を祝っているかのようです。 ……という、例年通りの、 誰が書いたかも分からないテンプレートな挨拶は、 この辺で切り上げさせていただきます」 「振り返れば、三年前。 私たちは期待に胸を膨らませ、 この校門をくぐりました。 ……いいえ、正確には 『内申点』という名の首輪をつけられ 逆らえば将来が閉ざされるという 恐怖政治の中に放り込まれたのです」 「先生方はおっしゃいました。『個性は大切だ』と。 しかし、実際はどうだったでしょうか。 靴下の色は白、髪の毛は耳にかからない、 スカートの丈は膝下。 私たちが学んだのは、学問ではなく 『いかに個性を削ぎ落とし、 社会という名の歯車にハマりやすい形に 自分を加工するか』という、高度な加工技術でした」 「部活動も素晴らしい思い出です。 炎天下、科学的根拠のない根性論で喉を枯らし、 サービス残業ならぬ 『サービス練習』に明け暮れたあの日々。 おかげさまで、ブラック企業に就職しても 『あ、これ部活よりマシだな』と思える 屈強な奴隷精神が養われました。 感謝の言葉もございません」 「そして、ここにいる保護者の皆様。 ……毎朝、死んだ魚のような目で 満員電車に揺られる皆様の背中を見て 私たちは確信しました。 『大人になんて、絶対になりたくない』と。 しかし、無情にも時間は過ぎ、 私たちは今日、その地獄への片道切符を渡されます」 「校長先生。 あなたが全校集会で語った、 三十回中二十八回は使い回されていたあのお話。 ……あれをBGMに、いかにバレずに 睡魔と戦うかというスキルは、 今後の人生で会議を乗り切る大きな武器となるでしょう」 「……いよいよ、お別れの時です。 住み慣れたこの檻を、私たちは去ります。 外の世界は、自由という名の 自己責任が渦巻く荒野だそうです。 でも大丈夫。 私たちはこの三年間で、 『中身のない言葉を並べてその場を凌ぐ術』を 完璧にマスターしました。 今日のこの答辞が、その最高の証明です」 「最後になりますが、 私たちのことなど一週間後には忘れるであろう 在校生の皆さん。 ……次は君たちの番です。 せいぜい、バレないようにうまくやりなさい」 「令和八年、三月。 卒業生代表……監獄の囚人番号、三〇二番。 「あなたの名前」」
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