お題詳細

桜華桜華2025-09-18 01:19

紫煙(しえん)のフロイントシャフト

明日、会議で使う書類の整理を終え、ようやく一息つく時間が出来た俺は、いつもの通り、社員でさえ分かりづらい場所に作られた喫煙室(きつえんしつ)へと向かった。 喫煙室に入ると、好運なことに誰も居なかった。 俺はお気に入りの窓際の席に着くと、すっかり季節が変わった外の景色を見ながら、一服(いっぷく)し始めた。 【コツコツガチャギィーバタンッ】 ドアの開閉自に振り向くと、少々やつれたなじみの顔があった。 俺が「よう」と片手をあげて声をかけると、無言で片手を2、3度ヒラヒラさせ、俺の隣の席にドッカリと座った。 そして、溜息(ためいき)と共に吐き捨てるように「つっ.......かれたー」とローテンションで言うと、項量(うなだ)れた。 俺からしたらお馴染(なじ)みの光景だ。“仕事が出来るやつだから”と、人よりやや多く回されているようで、 一段落つくと、こうして喫煙室にやって来る。 「へいへい、今日もお疲れさん」と俺は答え、ポスポスと肩を叩いて労(ねぎら)ってやる。 これもいつもの光景だ。こいつと違い、平々凡々(へいへいぽんぽん)で目立つことない俺は、食後や雑務(ざつむ)を終わらせた、息抜きにここに来ていた。 何度も顔を合わすうちに、自然と親しい間柄(あいだがら)になったのだが、こんな風に労い始めてもうどれくらい経つのだろう?と思いを巡(めぐ)らすと、出会った頃の新人時代の青臭(あおくさ)い顔が浮かんで来て、限 (くま)が目立つ疲れ果てた、今の顔と見比べ、思わず吹き出す。 そんな俺に、やつは怪訝(けげん)そうな顔を向けてきた。 それに対し「あーあー、年食っちまったなー」と、白髪が混じり始めた髪を無造作(むぞうさ)にかき上げ、苦笑いを返した。 こうしてる間にも、俺達の命は確実に消費されていく。 あと何年、こいつと煙(けむ)たいここで他愛(たあい)のない話が出来るのだろう? その答えは俺も知らないし、当然こいつだって知らない。 だから、この一時(ひととき)を大切にしたいと心から思った。 「……なぁ、今度お前さえ良かったら、何処(どこ)か食べにいかねぇか?お前、牛丼好きだったろ?たまには奢(おご)ってやる」 「えっ!?確かに好きだけど、そっちから誘ってくるなんて、珍しいな。もしかして、熱ある!?大丈夫か!?」 「うるせぇ。気が向いただけだ。そんなこと言うやつには、音(おご)ってやらねぇぞ?」 そう俺が拗(す)ねたような態度で言うと、やつは大げさに驚き「申し訳御座いません。お許しください。是非、お願い致(いた)します!!(おご)ってください!!」と、願願(こんがん)してきた。 「フッ………………しょうがねぇなぁ…(おごってやるよ」 「男に二言は?」 「ねぇ」 「言ったな」 「ああ。だから、ドタキャンやすっぽかしは無しな?」 「ああ、勿論(もちろん)だ」 「あと、火、要るだろ?」 俺が煙草(たばこ)の灰を灰皿に落としながら尋ねると、 「お、そうだった」と、ここに来た目的を忘れていたかのように、懐(ふところ)からいそいそと煙草を取り出すと、「さんきゅ......」と俺が吸っている煙草から火をもらい、吸い始めた。 いわゆるシガーキス状態なんだが…....…ま、おっさん二人の見ても誰も得しねぇわな。ハハッ。 その後、いつ行けるかスケジュールを確認し合い、別れた。 その話をしている最中、俺はまるで遠足に行く前日の子供のように、年甲斐(としがい)もなくうきうきしていた。 “デートの前日のよう”という言葉が一瞬頭をかすめたのには、気が付かなかったことにしておこう……………… 昔のセリフをまた掘り起こしてみました! あとは煮るなり焼くなり好きにしてくださいw

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#シチュエーションボイス#セリフ#男性向け

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