蜂乃巣ゆん蜂乃巣ゆん2026-05-28 16:26

嘘と、愛情と。

ブブッ。 携帯の振動で目が覚めた。 「……やば」 重い身体を無理やり起こす。 泣いたせいか頭がぼーっとする。 気づけば床で寝ていたらしい。 冷えたフローリングが妙に身体に響いた。 何時だ。 携帯を見る。 表示された名前に、心臓が止まりそうになる。 霧島夏実 「っ……」 胸が痛い。 今、一番会いたい人。 そして。 一番会っちゃいけない人。 深呼吸をひとつ。 泣いた声になってないか。 大丈夫か。 いつも通り。 普通に。 何もなかったみたいに。 通話ボタンを押す。 「こんばんは、やっと出てくださいましたね」 いつもの声だった。 少しだけ安心してしまう。 優しくて。 どこか真面目で。 聞くだけで落ち着く声。 「何度かかけたのですが、忙しかったですか?」 「いや、わりぃ。寝ちまってたわ」 少し空元気気味に笑う。 「検査疲れってやつ? なんかめっちゃ眠くてさ」 「そうだったのですね」 少し間。 そして、少しだけ心配そうに。 「病院へ行くと仰っていましたが……検査、どうでした?」 その瞬間。 心臓が嫌な音を立てた。 顔が引きつる。 あぁ。 そうだ。 今日、病院だった。 忘れた訳では無いのに。 医者の言葉が頭をチラついて、言葉が出てこない。 「……あー」 喉が詰まる。 言え。 普通に言え。 「単なる栄養失調らしいよ」 人生で一番大きな嘘だった。 「全然問題ないってさ」 少しだけ沈黙。 その数秒がやけに長く感じる。 「そうですか……」 小さく息を吐く音。 「良かった」 その声が。 たまらなく苦しかった。 ごめん。 本当は良くなんかない。 半年後には、俺いないんだ。 「心配しすぎなんだよ」 無理やり笑う。 「夏実、真面目だからなー」 「恋人ですので」 当たり前みたいに言う。 少しだけ笑った声。 いつも通り。 何も変わらない。 変わったのは俺だけだ。 その事実が、苦しかった。 「あ、そうだ」 気づけば口が動いていた。 「今から、少し会えない?」 「……え?」 「病院で検査ばっかだったからさ。なんか疲れちゃって。少し顔見たくなった」 本音だった。 最後になるなら。 どうしても会いたかった。 一番好きな人だから。 「あら?珍しいですね」 少し笑う声。 「わかりました」 その優しさが痛い。 「では、いつもの場所で?」 「うん」 少し間を置いて。 「いつもの公園で」 通話が切れる。 静かな部屋。 急に現実が押し寄せる。 会う。 そして。 終わらせる。 「……どうせ傷つけるなら」 呟く。 誰にも聞こえない声で。 「せめて、前向ける傷にしないとな」 コートを羽織る。 外へ出る。 冬の空気が冷たい。 「うぁ……さみ……」 白い息が夜へ溶けた。 公園までの道。 見慣れた景色。 コンビニ。 閉店したパン屋。 信号待ちで、ふと思い出す。 ――あの日も、寒かったな。 付き合ってくれって言ったのは、あの公園だった。 緊張しすぎて。 何話したか半分覚えてない。 でも。 夏実が笑った顔だけは覚えてる。 『よろしくお願いします』 あの時。 世界が輝いて見えた。 大袈裟じゃなく。 本当に。 幸せだった。 「何があっても、夏実の幸せを守るから」 よくあんな歯の浮く台詞言えたな。 今思うと恥ずかしい。 でも。 本気だった。 ――なのにな。 皮肉だ。 守りたいから、傷つける。 幸せにしたいから、別れる。 そんな矛盾、あるかよ。 気づけば、公園へ着いていた。 冬の空。 やけに綺麗な満月。 ベンチへ腰掛ける。 吐いた息が白い。 静かな夜。 遠くで犬の鳴き声が聞こえる。 そして。 聞き慣れた声。 「お待たせしました、慶太さん」 顔を上げる。 そこには。 笑顔の夏実がいた。 ……駄目だ。 やっぱり。 別れたくない。 そう思ってしまった。 でも。 もう遅い。 今日、俺は。 一番大事な人を傷つける。

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#声劇#ゆんの台本

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