題名『断縁師』 筆の赴くままに書きましたところ、約2000字の長さになりました。 少しでもお気に召して頂けたならば重畳に存じます。 ※アレンジ・アドリブ大歓迎です。 以下、本文。 ✄ ― ― ― キリトリ線 ― ― ― ✄ 申(もう)し。斯様(かよう)な深山(みやま)に、如何(いか)なる用向きで御出(おい)でに? ……縁切り。成程。我が家に用で御座いましたか。 ……ええ。先祖代々の家業で御座います。 尤(もっと)も、今の時代はそれだけでは食べていけませんので、副業もやっておりますが。 慣れぬ山歩きをしてお疲れでしょう。拙宅に案内致します。どうぞ此方(こちら)で御座います。 ……春は山菜採り、夏~秋は草刈りや農作業の手伝い、冬は狩猟をしております。 とった山菜や獣肉・革製品などを、近くの産地直売所に卸していて、結構売れているのですよ。 最近は間伐材を利用して、木工品なども作っておりますがね。 ……そういえば、自己紹介が未だでしたね。 『縁(ゆかり)の草(くさ)』、ムラサキより名を頂き、『此糸(このいと)』と申します。 さ、着きました。陋屋(ろうおく)ですが、どうぞ上がっておくつろぎ下さいませ。 手水場(ちょうずば)は彼方(あちら)で御座います。 帽子掛けや衣紋掛(えもんか)けも、ご随意にお使い下さいませ。 今、お茶を入れて参りますね。 《間》 粗茶ですが。 ……恐れ入ります。 それにしても、日暮れ前に会えて良かったですね。実に運の良い方だ。 迷われる方があまりにも多いので、看板を設置したのですが、落雪で壊れてしまいましてね。現在修理中なのですよ。面目(めんぼく)次第(しだい)も無い。 ……この辺りは、今でこそ我が家一軒のみで御座いますが、嘗(かつ)ては山仕事で栄え、結構大きな集落だったのですよ。 【壱人称】は生まれ育ったこの山が好きですし、町中の生活は体質的にツライので、此処(ここ)で生活しております。 ……ああ。えと……、普段は電気で言うところの、ブレーカーから落としているのですが、無意識にブレーカーを上げてしまって、視なくて良い縁をうっかり視てしまい、間が悪い事に、勘の鋭い者がそこに居合わせまして……、修羅場になった事が過去に……幾度か……。《乾いた笑い》 ……さて、一息着いた所で、本題へと入りましょうか。 ……既に御存じかとは存じますが、我が家は、有りと有らゆる縁を断ち切る、『断縁師(だんえんし)』の家系です。 どんな縁も、この世ならざる力で一刀両断。立ち所に切って差し上げます。 勿論、大変デリケートな分野なので、仕事に取り掛からせて頂く前に、きちんと審査をさせて頂きますがね。 ……ええ。場合によっては、お断りさせて頂くケースも御座います。それでも、宜しいですか? ……恐れ入ります。まあ、視るからに悪縁と解る物は、即座に断ち切りますがね。《苦笑》 全ては依頼主様の為で御座いますので、ご理解とご協力の程、宜しくお願い申上げます。 ……恐れ入ります。 ああ、あと【弐人称】には必要なさそうですが、此方(こちら)が必要と判断した方には、森林浴を行います。 ……立った気を静め、後悔の無い決断をして頂く為です。森林浴、なさいますか? ……畏(かしこ)まりました。では、説明を続けさせて頂きますね。 まずは、切れる縁ですが、【弐人称】に関わるものに限ります。 例えば、“推してる芸能人の恋仲を裂きたい”や、“大嫌いな奴が良縁に恵まれませんように”などは、駄目です。 ですが、最近問題になっている、SNSで誹謗中傷して来た相手との縁は切れます。 ……ええ。差し障りのある縁が視えさえすれば、問題無く縁切り出来ますので、ご心配無く。 それから、断ち切った縁は、二度と結ばれません。必ずご留意下さい。 我が家が使う方術(ほうじゅつ)は、縁を断ち切り、断ち切った縁とは二度と結び付かせないというもので御座います。 ですから、今後、如何(いか)なる理由が出来ようとも、一度断ち切った縁の復縁は致しかねますので、悪しからず。 【弐人称】には、この二点を伝えれば大丈夫なようですね。 とても良い“纏(まつ)ろう方”がついておられますから。 ……あ、“纏(まつ)ろう方”というのは、所謂(いわゆる)“守護霊”です。 ……【弐人称】の先祖の方ですね。とても良い方が守護についてくださっているので、この方がついておられる限りは、恐らく今回以上の悪縁に悩まされることは、今後無いと思います。 良縁が悪縁に変わることも、よく有りますので、絶対に大丈夫と言い切ることは出来ませんが……。 そうだ、一番大切な料金の話をしなければ。 我が家は古来より成功報酬制なので、掛かった時間と疲労度合いで、料金を決めさせて頂いておるのですが……、う~ん……そうですね~……、初回ですし、すんなり切れそうなので、これくらいで如何(いかが)でしょう? ……ご納得頂けて良かったです。 良縁を結ぶことは致しませんが、代わりに、未来永劫……、輪廻転生した先までも、悪縁を絶ち切る。これが、我が家の売りで御座います。 ……〔合縁奇縁(あいえんきえん)/一樹(いちじゅ)の陰(かげ)一河(いちが)の流れも他生(たしょう)の縁(えん)/縁は異なもの、味なもの/親子は一世、夫婦は二世、主従は三世/袖振り合うも多生の縁〕と申しますが、困った事に良縁ばかりとは参りません。 枕が長くなりましたが……、【弐人称】の断ち切りたい縁は、何方(どなた)との縁ですか? ✄ ― ― ― キリトリ線 ― ― ― ✄ 本文は以上です。ご覧頂き、誠に有難う御座いました。皆様からのご投稿及びご感想を、心よりお待ち申し上げております。 ちなみに、先祖や血縁で無い方が守りにつくと、“纏ろわぬ方”になるという設定です。雰囲気100%で書いてるので、あまり気にしないで下さい。
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