❉東の牡丹、西の牡丹

東で生まれた僕は、 紙に包まれた長手牡丹を、 静かに下へ向けて灯していた。 西で育った君は、 藁の先に火を宿すスボ手牡丹を、 空へ語りかけるように掲げていた。 違いを並べて ふたつを比べて 笑い合った夏の夜。 東の紙は、 想いを包むことが得意だった。 西の藁は、 風を抱きしめることが上手だった。 だからだろうか。 僕の言葉は胸の奥へ沈んでいき、 君の笑顔は夜空を感じていた。 火花はやがて、 蕾になり牡丹になり、 松葉になって 散り菊となり消えていく。 あの一瞬は、 形は違っていても、 僕と君との ひとつの想い出となった。 今年の夏も線香花火を灯す。 しばらくスボ手牡丹は 見ていないけれど、 心は、 いつも少しだけ西を向いている。 あの夜、 上を見上げる君の火と、 下を見つめる僕の火は、 同じ夜を見つめていたのだと、 消えた火玉のぬくもりが、 今も静かに教えてくれる。

71
#朗読#花火#詩音の詩(うた)

回答一覧0

まだ回答がありません

最初の回答者になってみませんか?