何もしていないのに、 お腹はすく。 ボタンひとつで満たされればいいのに。 そんなことを言ったら、 君は少しだけ困った顔をした。 「それ、もったいないよ」 「何が?」 「ご飯の時間」 そう言いながら、 君は天津飯を頬張る。 幸せそうな顔。 まるで今食べているその一口が、 今日一番の楽しみみたいに。 「生きるのに必要なものだけどさ」 君はスプーンをくるくる回しながら続ける。 「せっかくなら楽しまないとね!」 私は曖昧に頷いた。 正直、 あまり考えたことがなかった。 お腹が空いたから食べる。 それだけ。 必要だから補給する。 そんな認識だったから。 でも君は違う。 美味しいと言って笑う。 新しいお店を見つけて喜ぶ。 期間限定だと聞けば目を輝かせる。 食事の時間そのものを、 楽しんでいるように見えた。 「そんなに好きなの?」 そう聞くと。 「ご飯も好きだけど」 君は少し考えてから笑う。 「こういう時間が好きかな」 窓の外では、 忙しそうに人が行き交っている。 やることは山ほどあるし、 終わらせなきゃいけないこともある。 それでも。 天津飯を食べながら笑う君は、 どこか満たされて見えた。 人生は案外、 そういうものなのかもしれない。 必要なことをこなすだけじゃなく。 少し立ち止まって。 少し味わって。 少し笑う。 そんな余白があるから、 毎日は少しだけ楽しくなる。 君が最後の一口を頬張りながら言った。 「ほら、冷めるよ?」 どうやら私も、 まずは天津飯から始めるべきらしい。
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