《作者の小話》 最近書いた中ではズバ抜けてお気に入りの作品なんです。 コエミーに上げるのは正直迷いましたが(※長いので…)、もし一人でも読んでくれる人がいたらスゲー嬉しいなっていう思いで投稿いたしました。 他にも上げてない作品は沢山ありますので、もし作品や作風を気に入ってもらえたら、ヤトのnoteも見ていただけると嬉しいです…! 声に出さなくてもいい、純粋に読んでほしいんだよっ…!! 《ルール》 思い思いの解釈で、自由にお楽しみください。 一人称や言い回しの変更もOKです。 《お知らせ》 黒須木ヤトのXでは他にも多数の無料作品を公開・発信しています。 宜しければお気軽にフォローのほど宜しくお願いします。 ***《ここから台本》*** ……ああ、またこの空だ。 こっちの世界の空は、やけに広い。 雲の形も、風の匂いも、もうすっかり見慣れたはずなのに。 時々、ふと思うんだ。 この空の向こう側には、もう一つの世界があるんじゃないかって。 ……笑うよな。 俺は、ただの大学生だった。 講義をサボって、コンビニでコーヒー買って 帰り道で君と他愛ない話をするだけの どこにでもいる普通の男だった。 バレンタインの日。 君は顔を真っ赤にして、チョコを差し出してきたっけ。 「本命だからね」って。 ……知ってたさ。 だって俺たち、相思相愛だったじゃないか。 だから、俺も決めてたんだ。 ホワイトデーの日に、これを渡すって。 ほら。 この指輪。 ポケットの奥に、ずっと入れてたんだ。 サイズだって、ちゃんとバレないように測ってさ。 なのに。 その前の夜だった。 ベッドに入って 「明日はいよいよ……」って 逸る気持ちを抑えながら目を閉じて。 ……目が覚めたら。 知らない空だった。 いや、空どころか。 知らない森、知らない街、知らない言葉。 最初は夢だと思ったさ。 三日もすれば目が覚めると思った。 一週間経てば、さすがに戻るだろって思った。 ……でもな。 気づいたら、二十年だ。 剣の振り方も覚えた。 魔物の倒し方も覚えた。 こっちの言葉だって、今じゃ母国語みたいに話せる。 仲間もできた。 酒だって飲めるようになった。 だから時々、怖くなることがある。 あっちの世界のほうが 夢だったんじゃないかって。 大学も。 帰り道も。 バレンタインのチョコも。 全部、俺の都合のいい幻想だったんじゃないかって。 頭で否定するのは簡単だ。 でも心はいつまで経っても 思い出から目を逸らそうとはしてくれない。 俺だってわかってる。 分かりたくないほどに分かってる。 「それでも、これだけは、本物だ。」 君に渡すはずだった指輪。 なぜかこれだけは、最初から俺の手の中にあった。 おかしいよな。 こんなもの、捨てちまえばいいんだ。 そうすりゃ、全部なかったことにできる。 元の世界なんて存在しなかったって、それで終わりなんだ。 ……でもさ。 できるかよ。 馬鹿にすんな。 俺の誓いは、そんな軽いもんじゃなかったはずだ。 もし簡単に捨てられるなら 最初からこんなに君を愛してなんかいない。 ……なぁ。 この世界の空も、きっと丸いんだろうな。 地球みたいにさ。 どこまでも繋がっていて ぐるっと回れば、いつか同じ場所に戻る。 なのに。 この空の下には たった一人 君だけが、いない。 バレンタインのチョコってさ。 すぐ溶けるもんだと思ってたんだ。 甘くて、柔らかくて 時間が経てば形もなくなる。 ……でも。 溶けねぇもんだな。 胸の奥に残ったやつは。 二十年経ったのに、まだこんなに甘いんだ。 なぁ、もし…… もしどこかで、この空を見てるなら。 俺はまだ、ここにいる。 指輪も 約束も 全部そのままだ。 だからさ。 もし帰れたら、その時は。 ちゃんと渡させてくれよ。 二十年遅れの、ホワイトデーを。 fin ***《ここまで台本》***
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