題名『時は得難くして失い易し~神は平等~』 某サイトに載せていた作品です。 少しでもお気に召して頂けたら幸いに存じます。 ※アレンジ・アドリブ大歓迎です。 以下、本文。 🕛 ・.。*🕐 ・.。*🕒 ・.。* いらっしゃいませ、お客様。ようこそお越しくださいました。 (客:ここは一体……) 《微笑》驚かれるのも無理は御座いません。 何せ……、此処(ここ)は普段、徒人(ただびと)は入って来られない、時と時の間(あわい)に在る場所ですから。 勿論、手前(てまえ)も変化者(へんげもの)で御座います。 (客:ひっ!変化者とは、なんと面妖な) ああ、そんなに怯えないでくださいませ。 何もあなた様を、獲(と)って食おうというのでは御座いません。どうか、ご安心くださりませ。 (客:そうなのか?ならば、よいのだが) ……落ち着かれましたか? (客:ああ) では、当店の説明をさせて頂きます。 (客:店?) ええ、ここは時と時の間(あわい)に在(あ)ります、『時間屋(ときまや)』という店に御座います。 そして、申し遅れましたが、手前は店主の烏兎(うと)と申します。 (客:綺麗な名前だな) 名前を褒めて頂き、大変恐縮(きょうしゅく)に御座います。 烏(う)は、太陽にいるとされる三本足のカラス『金烏(きんう)』を指し、兎(と)は、月にいるとされるウサギ『玉兎(ぎょくと)』を指しておりまして、二つを合わせた言葉『金烏玉兎(きんうぎょくと)』『烏兎怱怱(うとそうそう)』は、『光陰(こういん)矢の如(ごと)し』の類語で御座います。 したがって、手前の名前は太陽と月、月日(つきひ)、つまり時間(じかん)を意味しているので御座います。 (客:なるほどな) 手前のことはこれくらいにして、当店について、改めて説明をさせて頂きます。 (客:うむ) 当店は、お客様の時間を正すことを生業(なりわい)としております。 (客:時間を正す?) はい。徒人(ただびと)の一生とは、あみだくじのような、無数の選択肢の連続でなっております。 ですから、通常、時間の流れと言えば角のない、らせん状やループなど、丸みを帯びたものをご想像なされるかと思いますが、 実際には、ひどく角ばっているものなので御座います。 徒人(ただびと)の方は、時が経過することを”巡(めぐ)る”と表現される方が多いかと思われますが、手前どもは”曲がる”と申しております。 (客:時が、曲がる) 曲がりくねり、捻(ね)じれきった時を正す。 まぁ、言ってしまえば、『後悔していることをやり直す機会を与える店』なので御座います。 ん~、まだ堅苦しいですね。簡単に申しますと、お客様の『後悔している過去を修正できる』のです。 (客:過去を修正) 修正したい過去がない場合は、本日ご利用頂かなくても構いません。またいらしてください。 ただし、修正出来る箇所は一ヵ所のみ。さらに、修正できる回数は一生に一度きり。二度目のご利用は出来ませんので、悪しからず。 誠に勝手ながら、こちらにお客様の来歴をまとめさせて頂きました。 こちらをご覧になりながら、どうぞごゆるりとご検討くださいませ。 (客:ない) ない……。本当に御座いませんか? (客:ああ) 左様で御座いますか。であれば、今回は見合わせて、またいつの日かご利用頂ければと存じます。 その際には、『時間屋(ときまや)』と三回唱えてください。 それがこの店の扉を開く鍵となりますので。 (客:分かった。ちなみに、代金は?) ああ、大変失礼致しました。ご説明をしそびれておりました。 当店の利用料は、お客様の修正する前の未来、そして、この店に関する記憶で御座います。 修正前の未来が良くても悪くても、ご利用頂けるのは、一生に一度きり。修正できる箇所はたったの一ヶ所で御座います。 十分に熟考(じゅっこう)された上で、ご利用頂ければと存じます。 (客:ああ。では、また。いつの日にか) はい。また、いつの日にかお会い致しましょう。その日が来るまで、どうか、ご息災で……。 《交通事故の音+救急車の音》 ふぅ……。(残念そうなため息) 今頃、自動車保険に車両保険つけておけば良かったなとか、生命保険見直しておけば良かったなとか、考えていらっしゃるでしょうか。 ところが、こちらからお招きした際には、なかなか思い当たらないものなので御座いますよね。 う~む……、あの状態で三度お唱えできるでしょうか……。 ああ……、もう手遅れで御座いますね……。 事切れてしまわれた。 どうか心安らかに、お眠りくださいますように……。 しかし……、今の家には、本当に神棚が見当たりませんね。 昔はどこの家にも神棚が在(あ)って、毎朝起きたら、神棚と仏壇に手を合わせるのが日課で御座いましたのに。 嘆(なげ)かわしいことで御座りますなぁ~。 神棚が多かった頃は、行き来が円滑(えんかつ)で、大変宜しかったのに。 客人神(まろうどがみ)に身をやつして、徒人の暮らしを見ていた頃が、実に懐かしく思われまする……。 神は、徒人(ただびと)が呼ぶので御座います。 神は、徒人の、ここに神が居て欲しいという思い、神を信じる心により、力を得るので御座います。 昔話で、どこへ行っても厄介者にされると嘆いていた『貧乏神』を、老夫婦が丁重(ていちょう)にもてなしたところ、その貧乏神は、いつの間にか、まーるまると太った『福の神』になっていた、というお話が御座いましたでしょう? 徒人の思いとは、神にとって、大変な力となるので御座います。 ですが、今や、神棚があるのは、せいぜい商人(あきんど)の家か、中小企業の社長室くらいで御座いましょうか。 普段は見向きもしていないというのに、宝くじやら受験やらの困った時にのみ、熱心に神に頼み込んで参られる。 一体全体どういう了見なので御座りましょうか。 笑止千万に御座いますよ。 しかも、こちらから機会を授(さず)けて差し上げれば、それをふいになさる。 はぁ~……。全く、本当に徒人の一生とは『時(とき)は得難(えがたく)くして失(うしな)い易(やす)し』、で御座いまするなぁ~……。 変化者(へんげもの)とは、神や仏が仮に人の姿となって現れることの意、で御座います……。 ふふっ。 手前(てまえ)の真名(まな)は、『聖(ひじり)』。 日を知り、暦(こよみ)を読み解く、時を司(つかさど)りし者なり! 🕓 ・.。*🕔 ・.。*🕕 ・.。* 《おまけ》 ええ!?”神とは実に残酷な存在に御座いますね”、とは、いささかひどくは御座いませぬか? 手前ほど優しい神はおりますまい。 時は、自然物も人工物も、徒人の人種も、美醜(びしゅう)も、信仰心の厚薄(こうはく)も区別せず、万物に、平等に干渉(かんしょう)致しますゆえ……。 さあ……、次はあなた様の番に御座いますよ。 修正したい過去は、一体、何時(いつ)で御座いますか? どんなに昔であろうと、一生に一度、一ヶ所のみ、喜んで修正をする機会をお与え致しますよ……。 🕖 ・.。*🕗 ・.。*🕘 ・.。* 本文は以上です。ご覧頂き、誠に有難う御座いました。
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