「なるほど。」 「面白い話ですね。」 「毎晩、珈琲を淹れていた。」 「だから昨日も淹れているはずだ、と。」 「ですが、それだけで私が嘘をついていると?」 「随分と飛躍した推理ですね。」 「人間ですよ?」 「毎日同じことをしていたとしても。」 「たまたま、その日だけ気分が乗らないことだってあるでしょう。」 「疲れていたのかもしれない。」 「眠かったのかもしれない。」 「そんなことで、人を犯人扱いするんですか?」 「私は確かに見ました。」 「昨日の夜。」 「彼は家にいました。」 「生きていました。」 「それが事実です。」 「え?」 「夕方、新しい豆を?」 「そう、ですか。」 「それでも。」 「淹れなかった理由なんて、本人しか分からないでしょう。」 「それが証拠になりますか?」 「ミルも。」 「ケトルも。」 「マグカップも。」 「全部、そのまま……。」 「どうして。」 「そんなことまで調べたんです?」 「違う。」 「私は……。」 「そんなつもりじゃ……。」 「あなたの言う通りですよ。」 「私は昨日の彼を見ていない。」 「見たのは、一昨日までの彼です。」 「毎日同じように珈琲を淹れて。」 「笑って。」 「くだらない話をして。」 「そんな"いつもの彼"しか知らなかった。」 「だから。」 「昨日も、きっとそうだったんだろうと。」 「そう思ってしまった。」 「本当に。」 「あと一杯。」 「珈琲さえ淹れていてくれたら。」 「私は、最後まで騙し通せたんでしょうね。」 「負けです。」 「もう、隠す意味はありません。」
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