日向日向2026-07-09 09:38

【一人用怪談朗読】轆轤首

放蕩な夫にすげなくされ首を長くして待ちわびた女のはなし 落語の語り口をベースにしてますが怪談朗読、ホラー声劇として読みやすい形で自由に演じてください 男女不問 以下本文 ‪✂︎‬------------------キリトリ線-----------------‪✂︎ 愛と憎悪は紙一重、なんてのはよく聞く話と存じます 時は元禄。所は江戸 吉原で一の美貌を誇る遊女を身請けした男がおりました その男、卸問屋の跡取り息子でございましたが、まぁ目も当てられぬ放蕩ぶり 昼間は茶屋の娘をたぶらかし、夜になれば吉原を練り歩いて遊女を手玉に取る、色魔のごとき男でございます 顔もよく、声もよい美男子でございましたから、恋患(わずら)う女子(おなご)が引けも切らず、恋患うがゆえに騒ぎを起こして岡っ引きに引き立てられた娘もいたという さて、そんな放蕩息子が卸問屋の金を持ち出し、遊女を身請けしたとなっちゃあ当主は黙っておりませぬ 放蕩息子を勘当し、身請けした遊女と共に貧乏人が暮らす長屋に押し込んだのでございます 「ああ…畜生め!金を持ち出したくらいで勘当しやがって…!」 男は当初、勘当を解いてもらおうと卸問屋へ通ったり、新しい商売を開こうとしておりましたが、飽き性な性格が災いし、どれもこれもうまくいかぬ それでもなんとか生活が成り立っていたのは、身請けした遊女が開いた髪結(かみゆ)い床(どこ)が成功を収めたからでございましょう 髪結い床は繁盛し、男も髪結いとなって店を回そうとしましたがここでも例の飽き性が災いし、三日でぽいと櫛を放り投げてしまったのでございます それからは収まっていた女遊びが再開し、家の金を持ち出しては遊郭を練り歩き、女を手玉に取る遊びに更ける日々 妻となった遊女がどれほど懸命に言っても聞く耳を持たず、生活は苦しくなるばかり… この遊女、名を六花(りっか)と申しまして、帰ってこぬ夫を想っては契りあった昔に思いを馳せて、枕を濡らし恨み節を呟く日々 そこで六花ははたと気づいたのでございます 「わっちの捧げた小指を…返してもらわにゃ気が済まぬ…この恨みを晴らさでおくべきか…」 さてそんな折、男が珍しく朝焼けの前に長屋へ帰って来たのでございます なんでも金が足りず、寝ていた座敷を追い出されてしまったそうな 誰もかれもが寝静る刻限、男は苛々としながら箪笥を探り、妻が懸命に貯めた金を持ち出そうとしておりました ようやく箪笥の底から金を見つけ出し、しめしめと懐の合わせ目へしまう男 しかしそこではたと気づくのです 妻の布団は敷いてあるというのに、そこには誰も寝ていないという事実に おかしいなと思いつつ、長屋の中をぐるりと見渡す男。しかし暗がりの中には男以外の姿は見えぬ、見えぬというのにじめっとした、なにやら気味の悪い寒気がしてくるのです 男はぶるりと身を震わせ慌てて長屋から出ていこうとしました 「ねぇ、御前さん。こんな夜更けにどこへ行くんだい…?」 六花だ…!妻に見つかった…! 恐怖に駆られた男は長屋の引き戸に手をかけようとしました。けれど背後からぐいと首元を引っ張られそのまま後ろへ尻もちをつきます 痛みに顔をゆがめる男の首元に得体のしれぬ生温かな物が絡みついてくるではありませんか ゆるく巻き付くそれは触れるとまるで人肌のよう、そしてどこか嗅いだことのある、香の匂いがする… 青ざめる男の目の前へ、ずるずると、まるで蛇が這うかの如く頭(かしら)が落ちてくる…。男の鼻先で寸分たがわずぴたりと止まったそれは……赤い涙を青白い頬に流し、不気味に微笑む六花の顔でございました 「お前さんを愛していたのに。小指を捧げるほどの愛をお前さんに預けたのに…それすら忘れて裏切るならば、わっちはお前さんを許さぬよ。一途なわっちと心中しておくれ…?」 ぐるりと巻き付く六花の長い首。男を待ち侘び、その伸びた首で六花は男を絞め殺したのでございます。 翌朝、長屋では首なしの夫婦の死体があがりましたが、その首はどこを探しても見つかりませぬ さて、二人の首はどこへいったのやら… この一件の後(のち)、浮気を繰り返す男の元には首を長くした女の怨念がとりつくなんて、まぁ眉唾な話も出てくる始末 心移ろう浮気者ってのは、いつの時代も己(おの)が首を締め付け回らなくなる 逢い 飽い 愛飢え男の、終いの噺にございます

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