黒須木ヤト黒須木ヤト2025-11-23 12:37

【朗読】クラゲ

アレンジ、改変、アドリブなどお好きにどうぞ。 楽しく演じる全ての人を応援しています。 ***** 【クラゲ】 ──どうして、だろう。ここに来るつもりなんてなかった。 ただ、少し時間を持て余して、駅から近かったから。 それだけで、私は水族館の扉をくぐった。 目の前に、大きな水槽。 その暗がりの中で、淡い光に照らされながら漂っている。 「クラゲ…」 ただ、ゆらゆらと──落ちては、また浮かび。 その動きを見ているうちに、私は呼吸を忘れた。 彼らはここに囚われているのか。 そう考えると、胸の奥がふっとざわめく。 けれど……クラゲは、そのことを理解しているのだろうか。 理解する、ということ自体、彼らには必要がないのかもしれない。 漂う姿に妖艶な光の衣が纏わりつく。 これは計算され尽くした照明だ。 美しい、と思わせるために。 それを知っているのに、私はやっぱり美しいと思ってしまう。 ──それは、騙された感情なのか? いや、違う。 今この瞬間に生まれたものは、私自身の素直な想いだ。 「ねぇ。 自由を知らないことは、不幸なのかな。 囚われてる、って思っているのは…… 実は私の方なのかもしれないね。」 円柱状の水槽には角がない。 彼らには、透明な壁そのものが見えていないのかもしれない。 私はどうだろうか。 過去とか、未来とか、理由とか意味とか。 見たくないのに、見えることがある。 クラゲはただ漂っている。 それだけで、綺麗だった。 何から、どうして、どこへ──そんなこともわからないまま。 「……ねぇ。 私も、もう少し漂ってみてもいいのかな。」 fin. ***** お読みいただきありがとうございます。 Xの方では他にも多数の無料作品を公開していますので、よければお気軽にフォローお待ちしてます。

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#朗読##擬詩化シリーズ

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