「銀木犀のそばで」

……わかる？ ほら、ここ。銀木犀。 金木犀ほど強くは香らないけど、 この、ふわって優しく漂う感じ……好きなんだ。 気づかれないくらい静かに咲いて、 でも、ちゃんとそこにいて。 風が吹いた時だけ、そっと教えてくれるような―― そんなところ、なんか……君に似てるかもね。 いつも無理に目立とうとしなくて、 誰かの後ろに立って、静かに笑ってて。 でも、気づいたら―― 一番そばにいてくれるの、君だった。 ……ねぇ。 銀木犀の香りって、 なんか“秘密”を抱えてるみたいだよね。 この香りを知ってる人は、少ないかもしれないけど、 だからこそ、“特別な人”と一緒に感じられたらいいなって、 ずっと、そう思ってた。 君とこうして歩いてる今日みたいな日が、 この秋の空気と一緒に、ちゃんと心に残ってくれるなら―― それだけで、嬉しい。 ……ほんとはね。 今日、君に「好き」って言おうか迷ってた。 でも…… もう少し、このままでいいかな。 銀木犀みたいに、 そっとそばにいて、 少しずつ、君の隣が当たり前になっていけば。 ……それでも、いつか。 ちゃんと君に届くように―― この気持ち、育てていくから。