お題詳細

SillverSillver2025-11-17 00:37

花魁語り

 私のお題は、一人称・二人称、語尾の改変はして頂いても構いません。ただし、セリフの文脈が変わるほどの過度の改変はおやめくださいますよう、ご協力をお願いいたします。  以下、本文です。  ふうらり、ふうらり。酔いましな足取りでゆく宵小路(よいこみち)。月明かりの影、柳の枝垂(しだ)れに潜むナニカ。機嫌よく行く酔客(すいきゃく)は憐れ夢の中。……おや?貴方はアレが見えるのですね。不思議な方だ。私は……いえ、やめておきましょう。月夜の一期一会としておこうではありませんか。  先程のアレにご興味がある様子。宜しければ、ご教授致しましょうか?……ふふ、素直なお人は好きですよ。では、語りましょうか。悲しい過去の物語です。  時は江戸時代。江戸幕府が開かれて百年ほど経ち、世の中は太平を享受していました。もちろん、今の日本のようにちょくちょく犯罪が起きてみなしごが出たり親が病で亡くなり天涯孤独になるものも居ました。そんな中で、女児には一種のセーフティーがありました。それが、遊郭です。遊郭は確かに厳しいのですが、野垂れ死ぬよりはましです。そう思って入楼するものはちらほらいたのです。先程のアレもその手合いです。  アレは幽霊なのか?ですか。一概に幽霊としてしまうのは早計ですよ。幽霊とはつまるところ天に召されずにいる魂の事を指します。ですが、アレはそうではありません。土地に残る記憶なのです。故に、私は『悲しい過去の物語』と、そう評したのです。話を戻しますね。  そうしたセーフティーによって生き延び成長したアレは年頃になり、客を取るようになりました。流石に厳しい遊郭といえど、年端も行かない女児に客を取らせるのは倫理に反しますから。日々客を取っていく中で、何度もアレに会いに来るものも現れ始めました。そのまま普通の客と遊女であれば今のアレが生まれることもなかったのでしょうがそうはいかなかったのです。よくある不幸話と言ってしまえばそこまでなのでしょうが、土地に色濃く魂が天に召されてなお残るほどの記憶になるくらい、愛し合ってしまったのです。アレと天下の江戸幕府将軍が。  当然、将軍と女郎が結ばれたいと願ってもお互いの立場がそれを許さず、引き離されました。将軍には良家の娘たちを集めた大奥がありましたし、アレには高嶺の花であれという『花魁』という立場がありましたから。二人は互いの立場が故に結ばれないのであればと、一つの計画を立てました。そう、心中です。  お判りでしょうが、こうして魂無き今も幻影として残るほど土地に焼き付いた記憶となったのですから当然その心中は上手くいきませんでした。将軍だけが死に、花魁は生き残ってしまったのです。後を追おうにも、将軍を探してやってきた者達に捕らえられ死よりも惨い責め苦の果てに花魁もその命を散らしました。余りの事に、死してすぐに魂が壊れて消えてしまうほど。  この土地は、それをただただ見守っている事しかできなかった。ただただ見守り、そしてせめてもの冥福を祈って花魁の幻影を時折写すのです。魂無き花魁に届かずとも、慰めをと。  これが、アレに関する物語です。如何でしたか?……ふふ、私のことが今度は気になりますか。ですが最初に語った通り、今宵の出会いは一期一会。夜が見せる不思議です。それを解き明かしてしまったら酷くつまらないでしょう。故に、今夜はここでお別れです。それでは、さようなら。

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#朗読

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