今朝、きみは遠い街へと引っ越して行った。 長い遠距離恋愛の果てに、 ようやく幸せを掴んだらしい。 カーテンの隙間から差し込む朝日がやけに眩しくて、 目を擦ったら、少しだけ涙が出た。 縁日の帰り道とか、 初詣で引いたおみくじとか。 コンビニで新作のお菓子を見つけるたび、 とりあえずきみに連絡してた気がする。 気づけば、 何をするにも隣にはきみがいた。 きみの遠距離恋愛の愚痴も、 たぶん人より沢山聞いてきた。 会えないだとか、 返信が遅いだとか、 次はいつ会えるんだとか。 僕は適当に相槌を打ちながら、 ずっと別のことを考えていた気がする。 いつからだったんだろう。 確かなことは、 いつの間にか、 きみが僕の中心にいたってことだけ。 でも、 関係が変わってしまうのが怖かった。 もし壊れてしまったら、とか。 もし今までみたいに話せなくなったら、とか。 そんなことばかり考えて、 結局、僕は沈黙を選んだ。 机の引き出しを開ける。 書きかけの手紙が、 何枚も残ったままだった。 渡せなかった言葉たち。 今さら読み返す気にもなれなくて、 すぐに引き出しを閉めた。 もし、渡せていたとしても。 きっときみは、 冗談でしょ?って笑って。 僕も、 バレた?なんておどけて。 たぶん、 それで終わっていた気がする。 ひとりで答え合わせができるくらいには、 きみを理解しているつもりだから。 少し背伸びをして、 ベッドから降りる。 静かな部屋を抜けて、 リビングへ向かった。 食卓の上に、 僕宛ての手紙が置いてあった。 差出人なんて書いてないのに、 見た瞬間、 きみの字だってわかってしまう。 滲んだ文字で、 一言だけ。 「きっと私は、 あなたに止めて欲しかったんだと思います」 しばらく、 その手紙を持ったまま動けなかった。 外では、 何事もなかったみたいに朝が続いている。 電車の音が、遠くで聞こえた。 たぶん僕たちは、 お互いに、 少しだけ遅かったんだと思う。 でも、 あのままの関係を壊せなかったことを、 今でも間違いだとは思えない。
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