注意点、募集要項お題も必ずご一読ください。 以下お題です。 ①(読み手様決定済) 桜がある景色で有名になった町がある。 私の住んでいる町「真家町(まさかまち)」。 ただ桜が咲くだけで有名になった? いやいや、そういう訳ではない。 その桜は開花後、なぜか梅雨明けまで散ることがない。 花弁(かべん)もまた特殊で、天気の良い日は皆(みな)の知る淡いピンクのそれであるが、 ひとたび雨の雫が花弁を濡らすと、徐々に色が抜け、 雨上がりにはそれらが白く輝いて見えるのだ。 『白の花弁のかほり(かおり)をかげば、花は誘(いざな)い我を呼ぶ』 この町に伝わる伝承の一節である。 ②(読み手様決定済) 今は梅雨。 今朝も雨。 だが、午後からは雨も止み所々日差しが差し込むという予報。 そう、もしかすると今日の午後も雫の衣を纏った真白(ましろ)の桜が見られるかもしれない。 こういった楽しみがあると家を出る準備も心持ち捗る。 「あとは一…雨に濡れた用の替えの靴下っと。」 カバンのサイドポケットにそれを突っ込み、最後に手ぐしで軽く髪を整え家を出る。 五月雨。 一人用にしては少し大きめの傘をさす。 藍色の傘に落ちる雨粒の音は、足音と共にリズムを刻んでいた。 ③(読み手様決定済) 5分ほど歩くと見えてくる我が町の誇る桜並木。 朝から降っていた雨に打たれた様子の桜たち。いくばくかの雫を花弁に蓄えていた。 一般的に考えると雨は桜の天敵。 雨風で散ってしまう花弁が儚く切ないと、誰が最初に言い始めたのだろうか。 しかし、ここは真家町。 桜の木々はこの雨を待ち望んでいたかのように活き活きとして見える。 心なしか木々の花弁の淡いピンクの色が薄くなり始めていた。 刹那。 雲が割れた。 光の糸が真っ直ぐに伸び、一帯にあるひと際大きな一樹(いちじゅ)を照らす。 既に真白に染まっていたその一樹の桜の雄々(おお)しさに言葉を失う。 突風。 真白の花弁と共にふわりと香る桜の匂い。 気付けば、意識を失っていた。 ④(読み手様決定済) 目を覚ます。 視界に広がるは…藤色の空に、夕日の如く沈みゆく…リンゴ? 下弦の月もまた赤い。 空にはリンゴと赤い月、先(さき)の原(はら)では黒の駱駝(らくだ)が闊歩(かっぽ)する。 これは出来の悪いシナリオ?嘘の…フィクションか? 大いに混乱し困惑した。眉間のしわの深さは、過去イチではなかろうか。 小難しい顔をしているとどこからともなくトコトコと黒猫が歩いてきた。 「やあ、君も誘(いざな)われたのかにゃ?」 眉間のしわの深さが増す。 「おおよそ、こにょ場所と、猫がしゃべるのに驚いているようだにゃ。ここに来る客人たちはいつもその顔をするのにゃ。」 こちらの動揺など一切気にも留めずに、黒猫はしゃべり続ける。 「さあ、素敵な世界を案内するにゃ。」 黒猫は踵(きびす)を返した。 ⑤(読み手様決定済) 「どうしたにゃ?キツネにつままれたようにゃ顔をして?」 そう言って黒猫は私の頬をつねる。黒猫の愛くるしい言葉遣いと肉球の感触。 痛点がちょっとだけ反応した頬で、一応これが夢でないことは分かった。 少しはっきりした意識と、ようやく周りの景色を受け入れる準備のできた眼(まなこ)で辺りを見渡した。 小高い丘に荘厳な趣でそびえたつ純日本調のお城。そこへと続く1本道。 よく見るとお城の鯱鉾 (しゃちほこ)が…長細い? 「あぁ、あれは魚のムツだにゃ。あのお城の守り神でもあるのにゃ。あのムツが無くなるとお城が瓦解(がかい)すると言われているのにゃ。」 鯱(しゃち)ではなく、ムツ。鬼瓦も眼光の鋭い何か…。 つくづく訳の分からない世界に迷い込んだものだ。 未だに困惑は続いていたが、自然と口角は上がっていた。 ⑥(読み手様決定済) お城へと続く1本道を1人と1匹がゆく。 黒猫はオヤツのソラ豆を頬張りながら鼻歌を歌っている。 「もうすぐみえてくるのにゃ。大好きにゃ場所が♪」 気づくと視界には門扉が広がっていた。 「たのもにゃ~。黒猫だにゃ〜。門扉を開けるのにゃ〜。」 その間の抜けたどこか愛くるしい問いかけに、門番が反応し閂(かんぬき)を抜いた。 門をくぐると、そこは城下町だった。 城へとまっすぐに続く道。おおよそここは大通りといったところか。 道の両端には様々な店屋があり、城下町の住人たちがドヤドヤと往来していた。 八百屋、花屋、帽子屋に…おもちゃ屋ぁ〜? よく見ると、大工の匠さんもいらっしゃるではありませんかっ! そこには、ひどく乱雑なラインナップの店屋たちが所狭しと立ち並んでいた。 今ではこの荒唐無稽さをも楽しんでいる自分がいた。 ⑦(読み手様決定済) 大通りを抜けた先、一段と豪華なのぼり旗が立つ露店が目に入った。 これは~…たい焼き屋さん? のぼり旗には「肥満中枢にダイレクトに届く!背徳の味!」と。 随分と豪快な売り文句ではないかと感心していると、閉じられていた鉄板が口を開いた。 浅黄色(あさぎいろ)のふっくらした衣。 鱗の先はこんがり焦げて湯気の立ちのぼる21匹の養殖たい焼きたちが顔をのぞかせた。 湯気を鼻から一気に吸い込む。 鼻腔、口内、両の肺、胃まですらこの湯気を歓迎し歓声を上げたかのようだった。 今にもヨダレを垂らさんばかりのしまりのない顔をしていたら。 「めにぃめにぃピーポー、ココのタイヤキのトリコね! アナタもトリコにナチャイナYO!」 と、ものすごく気のよさそうな店員さんが半ば強引にたい焼きを渡してきた。 ⑧(読み手様決定済) 薄い紙から伝わる熱気。 鼻腔をくすぐる焦げた匂い。 生唾を飲み込む。 ゴクリ。 直後、一気に頬張る。 ハフハフと口から蒸気を吐き出す。至福の瞬間。 あんこの隙間から顔を出す豆の粒を舌の上で踊らせる。 十分に踊りを満喫したそれらを喉から胃へと流し込む。 …くぅうううううううっ!! 確かに、背徳であり、美味。 たい焼きの後味の余韻に浸ろうとしたその瞬間、突如鳴り響く法螺貝の音。 「まずいのにゃ。百姓一揆だにゃ。」 と言い黒猫は私の胸にしがみ付いてきた。 「楽しかったぞ。おみゃえが望めばまたここに来れるのにゃ。残念だが今はここまでにゃ。次はかにゃらずお城を案内するにゃ。」 そう言って黒猫は口から紫煙(しえん)のようなものを吐き出し、私に吸わせた。 …私は意識を失った。 ⑨(読み手様決定済) 再び、目を覚ます。時計を見る。 家を出た時間…から、10分後? いやいや、私はあちらの世界で相当な時間を過ごしていたはず… 激しく頭を振った。 皆目見当もつかないが、幻の国に行っていた…と言うこと? いささか、ドタバタの疲れは残っているが、これも心地の良い疲れだ。 つまるところ… ももたろう、うらしまたろう、ならぬ、私は幻(まぼろし) たろうになったということか? 有名な話の主人公の気分を味わえたこの体験は貴重だったと思うべきか… 難しく考えてもはじまらない。 うん、これは真白の花が見せてくれた奇跡だ。 雨はすっかり上がり、桜の花弁は真白に輝く。 その並木道は私のゆく道を照らしてくれているようだった。 以上です。 本お題のイイネはこちらにお願いします。
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