蜂乃巣ゆん蜂乃巣ゆん2026-05-25 16:05

引きずりもどせ。

SE:慌ただしい撮影現場。 SE:走る足音。 SE:スタッフたちの焦った声。 スタッフ:え、嘘でしょ!? スタッフ2:主演、骨折らしい! スタッフ:……マジか。 (現場がざわつく) 主人公(独白):その日。現場が、止まった。 主演降板。撮影、延期未定。予算。 スケジュール。スポンサー。   誰かが小さく、「終わったな」と呟いた。 少女:……終わりませんよね。 主人公:…… 少女:これ、終わらないですよね? 主人公:まぁ、難しいだろうな。 少女:……ふーん。 (少し間) 少女:先輩。 主人公:なんだよ。 少女:代役。 主人公:断る。 少女:まだ何も言ってませんけど? 主人公:顔に書いてある。 少女:書いてないです。 主人公:書いてある。 少女:むしろ“主演やりたいです”って顔かもしれません。 主人公:絶対違う。 (少し間) 少女:逃げてるだけじゃないですか。 (静寂) 主人公:……なんだって? 少女:先輩はずっと。現場からじゃなくて。演じることから、逃げてると思うんです。 主人公:……分かったような口聞くな、何も知らないくせに。 少女:……分かりませんよ! (感情が少し乗る) 少女:全部綺麗に諦めてるなら、わかりますけど! そういう人なら、そんな顔しません。 主人公:…… 少女:終わった人ってそんな顔、しないんですよ。 先輩は、まだ終わってない顔してる。 (沈黙) 主人公(独白):妙に、腹が立った。図星だったからだ。 主人公:……俺はもう、役者じゃない。 少女:でも、ここにいるじゃないですか! 主人公:仕事だ! 少女:違う、違います! (少し間) 少女:先輩……ずっと苦しそうです。 それ、演じることが好きな人の目です。 主人公:…… 少女:嫌いになった人の顔じゃない。 (沈黙) 主人公(独白):返せなかった。その頃にはもう。 少しだけ。 本当に少しだけ。戻りたいと、 思い始めていたから。 少女:あ。そうだ。 主人公:? SE:紙を差し出す音。 主人公:……なんだこれ。 主人公(独白):古いノート。擦れた表紙。見覚えのある字。乱暴な筆圧。心臓が、少しだけ止まる。 親友(記憶):『あいつは、一人で辞める。』 (静寂) 主人公(独白):……あいつの字だった。 親友(記憶):『だから。』   『俺が先に死んだら。』 『誰か、無理やりでも。』 『引きずり戻せ。』 『天才を眠らせるな!』 (長めの沈黙) 主人公:……最低だ。 少女:え? 主人公(少し笑う):死んだ後まで、勝手なやつだ。 少女:それで? 主人公:…… 少女:引きずり戻されちゃいます? (少し間) 主人公:……条件がある。 少女:はい。 主人公:芝居は、ケンカだ。容赦なく投げる。 少女(笑う):返します。絶対。 主人公:後悔するぞ。 少女:先輩こそ、負けないでくださいね。 (少し間) 主人公(独白):その時。止まっていた何かが。ほんの少しだけ。また。動き出した気がした。

62
#声劇#ゆんの台本

回答一覧0

まだ回答がありません

最初の回答者になってみませんか?