赤羽根 比呂赤羽根 比呂2026-01-13 22:00

童話風台本【テムの木】

 【とある大きな山奥に、入ってもいつの間にか同じ場所に戻ってしまう魔法のかけられた奇妙な森があるというの…。この話しには続きがあって…】  続きって何だったんだろう…。  ネコの少年は学校で先生の話を聞きながら、ふと小さな頃子守歌がわりに聞かされていた物語の続きが気になり (そうだ! 森へ行けばきっと思い出すはずだ!)  と思った少年は学校が終わると、家に帰り大きなリュックに話の続きを思い出した時すぐにメモ出来るようにとスケッチブックとクレヨンを入れ、森に入りました。  とても薄暗く、木の枝や幹がオバケに見えることもありましたが少年はヒゲをピーンとはり森の奥へ奥へと進みます。辺りがいっそう暗くなり始め、子守歌の続きを思い出すどころか自分の名前も忘れてしまいそうなほどの孤独が少年におそいかかります。でも少年は家に帰ろうとしません。もうあの家にはいつもセッケンの良い香りがしていたお母さんがいないからです。  自分が何処を歩いているのか分からなくなってしまった少年は大きな木に寄りかかり休むことにしました。空を見つめていると突然辺りが光だしとてもまぶしくて目を開けていられず閉じてしまいました。少したちゆっくり目を開けると今までに見たことの無い光景が広がっていました。 「どこだろう? ここは…」  とても暖かい日差しが降り注ぎ、今までのような薄暗さはありません。それに、魚が気持ち良さそうに目の前を泳いでいるのです。自分は海の中にいるのではないかと思った少年は、めいいっぱい口をふくらまし空気を吸いこみました。しかし、もし海の中にいるのなら何故空気が吸えたのかと疑問に思った少年は試しにゆっくり空気をはきました。 「ここは海じゃないんだ…」  少年はそばにいるその魚を両手で捕まえようとしますが逃げられてしまい、また捕まえようとしますがやっぱりするりと逃げられてしまいます。 「何処なんだろう。ここは…」  少年は首をかしげながら地面に座りました。 「それにしてもおなかすいたな…」  朝から何も食べておらずグゥゥゥ…とおなかは鳴りっぱなしです。上を見上げると沢山の魚が赤いリンゴに似た何かの木の実を食べていました。 「魚が食べてるんだからボクが食べたって死にはしないだろう」  変な理屈から少年は跳び起き木に登り始めました。さほど登らずに木の実を取ることは出来ました。その実は不思議な香りのする木の実でしたが空腹に勝てず少年は一口ガリッと食べました。味は梅干しを食べたように酸っぱくて、でも何故か涙の味がしました。飲み込み二口目を食べようとすると急に眠くなり足を踏み外し地面に落ちてしまいましたが、それより何より強力な眠さに負けてしまい落ちたまま眠ってしまいました。  次に目を覚ますと何処かの誰かの家の天上を見つめていました。 「ここは何処だろう…」  そう思いながらグルリと家の中を見渡していると「気づいたのね」と言う声がしてそちらを見ると白の毛並みが綺麗な背の高いネコの少女がこちらに近付いて来ます。 「テムの木の実を食べたのね」 「テムの木の実?」 「えぇ。あれを食べてしまうと急に眠くなり思い出を一つ無くしてしまうの」 「思い出を…」 「でも無くすのはこの森を出てからだけどね…」 「え?」  少女はそれ以上何も言いません。その少女からは何故かお母さんと同じセッケンの匂いがしました。 「お母さん…」 「え?」 「ううん。何でもない。キミは?」 「テム…」  少年は窓から宙を泳ぐ魚が見え 「あっ。そうだ」  もしかしたら話の続きに関係あるかもしれないと思った少年は立ち上がり大きなリュックからスケッチブックを取り出し、外に出ると魚の絵を描き始めました。それにサイズを計り、おおよその重さも一緒に書きました。テムはそんな光景を見ながら微笑み暖かいスープの入った木の器を運んで来ると「もうじき寒くなりますから飲みませんか?」と少年に渡した。少年は何処となく少女がお母さんに似ている気がして何もためらわずそのスープを飲みほし、次にテムの似顔絵を描き始めました。暖かい日差しのせいかとも思いましたが、そうではない強烈な眠気におそわれ始めた少年はテムの顔を見つめ言いました。 「まさかテムの実を…」 「ごめんなさい。私はこの森とテムの木を守るためだけに生きてる、老いも死にもしないただの管理人。だから…」  と言いながら涙を流すテムを見ながら少年は子守歌の続きを思い出しました。  【この話しには続きがあって、森には変わった生き物や綺麗な少女がいるの。でもその少女は森を守ると魔女と約束してしまったの。だからもし森に入ってしまった人がいたら森を守るために少女はその人から森の思い出を消してしまい入って来た場所に戻してしまうの…】  せっかく思い出せたのに…。  少年は地面に倒れながらもテムを見つめました。 「さよなら…」  テムの最後の言葉を聞き少年の意識は遠のき目を覚ますと『この森入るべからず』と書かれた立てふだの前に倒れていました。 「ん? 何をしていたんだろう。確か…思い出せない…」  少年はテムの実のせいで森の中にいた『思い出』を無くしていました。そしてせっかく思い出せたはずの子守歌の続きも忘れていました。 「ん?」  少年は何故か手に握られていた小さなスケッチブックを開き宙に浮く魚の絵を見つけましたが、いつ描いたいたずら書きだろうとしか思えませんでした。でも最後のページに描かれていた少女のスケッチを見た瞬間何故か懐かしい気がして涙が流れ始めました。 「どうして…」  じっと見つめていると頭の中に名前が浮かび上がりました。 「テ、ム…」  少年は森のことを思い出したわけでもないのに何故かそう呟いていました。突然辺りが光だし、目を開けると目の前をあの宙を泳ぐ魚が気持ち良さそうに泳いでいました。少年は森にいた記憶を思い出しました。 「そうか。テムの実を食べたから思い出せなかったのか…。じゃあの家にテムが…」  少年は急いでテムの家に向かいました。 「テム…」  ドアを開けるとテムは驚いた顔をして言いました。 「どうして? テムの実を…」 「思い出したんだ。ちゃんと…」  テムは微笑み「ありがとう…」と呟きました。  【とある大きな山奥に入ってもいつの間にか同じ場所に戻ってしまう魔法のかけられた奇妙な森があるというの。この話しには続きがあって、森には変わった生き物や綺麗な少女がいるの。でもその少女は森を守ると魔女と約束してしまったの。だからもし森に入ってしまった人がいたら森を守るために少女はその人から森の思い出を消してしまい入って来た場所に戻してしまうの。でも、もし少女の名前を思い出すことが出来たらその人は森へ戻れるというの…】  あなたはそんな森があったらどうしますか?  宙を泳ぐ魚にあってみたい?  テムの実を食べてみたい?  もしテムの実を食べて『思い出』をなくしてしまったら少年のようにちゃんと思い出してあげれますか?                                        -おしまい- ーーーーーーーーーーーーーーー ※以上です。今回は童話です。

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#朗読#セリフ#ファンタジー#掛け合い#演じ分け

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